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PMCで見つけた〈18〉ダニー・デイビスとナッシュビル・ブラスの「マウンテン・デュー」

2018年11月27日

アパラチア山脈に住み着いた移民の密造酒

 

演奏の出だしは軽快なバンジョーから始まり、コルネットが加わる。てウッド・ベースがリズムを刻む中、スキャットがつないでトロンボーンがメロディーを奏でる。220秒ほどの曲だがカントリーらしい心地よさが後に残ります。PMCで探しても15曲ほどしか見当たらないナッシュビル・ブラスの演奏です。

 

デューは「dew」は「露」の意味ですが、「マウンテン・デュー」は密造酒の事だそうです。何か甘い炭酸飲料を想像してしまいましたが、全然違っていました。この曲はアメリカ・アパラチア山脈に伝わる古いフォークソングを基にしています。地図を眺めると、東海岸と中央部の大平原を分けるのが同山脈です。歴史的にはイギリスからの移民が西部の土地を目指して進んだのがアパラチア越えの道です。

 

馬車に乗り、あるいは徒歩の家族連れが越えるには険しい道程でした。西部の新天地を諦めて、山間で定住する人達もいました。この後、ニューヨークのハドソン川から五大湖につながるエリー運河が完成して、西部に向かうには水運を利用してシカゴに向かうのが幹線となりました。その先は「ルート66」が西海岸まで伸びます。

 

つまり、アパラチア山脈越えは裏街道となり、定住した人達は大躍動するアメリカの歴史から取り残された格好になり、反対にイギリスの古い文化、伝統を残していくことになったのです。密造酒と聞けば、利益を目的とした行為と思いがちですが、山奥に築かれたコミュニティで供された地酒なのでした。マウンテン・デューを飲むとき、人々は新天地に辿り着けなかった悔やみの苦い酒になったのか、はたまた、この地を桃源郷と思い定めて酔いしれたのか、私には分かりません。(宮崎正倫)

 

 ◇KITPMCとは:金沢工業大学がライブラリー・センターに設置しているレコード・ライブラリー「ポピュラー・ミュージック・コレクション」の頭文字をとった略称。全て寄贈されたレコードで構成され、245千枚を所蔵している。