PMCで見つけた〈31〉ナンシー・シナトラの「イチゴの片想い」
2019年1月22日
邦題で歌の甘さを演出、騙されたっていい中学生の頃
ナンシー・シナトラと言えばフランク・シナトラの娘というのは誰でも知っている。可愛いイメージで売り出し、後に「にくい貴方」で大人の女性シンガーに大変身する前の曲である。「イチゴの片想い」は原題が「Tonight You Belong To Me」で、訳せば「今宵、あなたは私のもの」という辺りだろうか。女の子の甘酸っぱい片想いとは、様相を異にしている。
ただ、鼻にかかったような声が甘酸っぱいのは間違いない。「私は、あなたが他の誰のものでもないのは分かっている。そう今夜、私のものになるのよ。銀色の月の光を浴びて」と積極的なのである。日本で初めて発売された彼女のアルバム「アイ・ラブ・ナンシー・シナトラ」にも収録されているが、このアルバムはフルーツの香りでむせ返るほどなのである。
10曲収められているが、「イチゴ」の他には、彼女の初の大ヒットとなった「レモンのキッス(Like I Do)」「リンゴのためいき(Think Of Me)」「フルーツ・カラーのお月さま(I See The Moon)」とA面、B面に2曲ずつ配されている。邦題は付いているが、どの曲も原題や歌詞にはフルーツの香りすらしないのである。
確か「イチゴの片想い」を聴いたのは中学生の頃だった。ラジオから聴くだけで、もちろん英語の歌詞も分からない。タイトルだけで思春期の血が燃え立っていたのかも知れない。しかし、よく考えれば片想いとは違うが、歌詞の内容の甘さを言い当てている。原題の英語を聞いたとしてもこんなにヒットすることはなかったかも… 邦題を付けた人の力量に感服しながら、よくぞ騙してくれた、と感謝したい。(宮崎正倫)
◇KIT・PMCとは:金沢工業大学がライブラリー・センターに設置しているレコード・ライブラリー「ポピュラー・ミュージック・コレクション」の頭文字をとった略称。全て寄贈されたレコードで構成され、24万5千枚を所蔵している。